手紙ではない。メールである。
ここは、片田舎にある直轄地の離宮引用元：Web版「9-25.公都での探索（２）」である。本物のシャロリック・シガ王子がいつ戻るかもわからないまま、魔王の季節の動乱に対処する重責を負い続けられるわけがない。そう判断してシガ八剣を辞して隠遁生活に入った。
そして今日は離宮に到着して２日目である。
目の前にＡＲ表示でポップアップメニューが出ている。
新着メール：１件
OK |
しかし、私はセキュリティ意識が高い男。タップなどしない。
王子「ラカ。」
ラカ「どうした？ シャロリック殿」
私は今目の前に幻覚が見えていることを話して、昨夜に何か異常はなかったのかを質問した。
ラカ「いや、昨夜は何も無かった。」
ふむ。疲れているのか？ それともラカには感知できないような大物だろうか？
小姓を呼んで顔を洗った。
◇
そうして３日が過ぎた。
目の前にポップアップが出たままというのは、結構、煩わしいものだ。
さらに５日が過ぎた。離宮に到着して１０日目。
上空に天竜が飛んできて、離宮に舞い降りた。
天竜「御主のみ言葉を伝える。」
王子「はっ、ははぁ～っ。」
天竜の威厳に打ちのめされ、私は平伏してお言葉を拝聴した。
天竜「『早くクリックしてメールを読みなさい。』」
王子「はっ、ははぁ～っ。」
御主の言葉を伝え終わると、天竜は去っていった。
ラカ「まさか天竜を見ることになろうとは。生きた心地がしなかったぞ。」
私はガタガタ震えながら、口々に声をかけてくる人々を振り切って離宮の居間に戻り、小姓に命じて人払いをさせた。
◇
そして私はメモ用紙を横に置いて、ＯＫボタンをタップ。クリックではない。
御主様とは環境が違うのだろうか？ 微かな不安を感じながらも手を止めることができない。
メールが開いた。
バーチャルな羊皮紙の巻物が目の前で展開するアニメーションがあり、中にメールの本文が記されていた。
羊皮紙の位置は目の前３０㎝ほど。少し近い。
自動的に消去する、なんて言われても困るので、まず書き写す。天竜が前面に出てくるような仕事に遺漏があってはならない。
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～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～ シャロリック・シガは、あなたのいた世界に勇者として召喚され、よく任を果たし、そのまま留まることを選択した。この世界に残った彼の名前と身体は現状の通り、あなたが使うものとする。天之水花比売の仰せに依り下知如件下知状 - Wikipedia。 天竜 何某
追伸 あやつを召し出したのは、毎週自治会のゴミ収集所を荒らしまわっておったハシブトガラス、三丁目の魔王引用元：よくわかる現代魔法３を討伐するためじゃ。 最初はそなたが退治するように仕向けておったのじゃが、そなたは魔王の存在に気が付きすらしなかったので仕方がなかったのじゃ。もう少し近所の話題にも気を配るがよい。 あやつは策を用いて見事に魔王を追い払ったので、儂はそなたへの報酬にとそなたの妻にするようにと用意しておいた町内随一の美人、高嶺葉菜を娶らせてやったのじゃ。あの娘も魔王と戦うそなたの勇姿にメロメロになっておったので簡単じゃった。 童貞を拗らせていたあやつは有頂天になって、そのまま留まるというので、差し許した。縁結びは丁寧にやり直したので心配するな。二人とも末永く幸せになる。 そのようなわけで、こちらにはそなたが戻るべき身体も娶るべき伴侶もなくなってしまった。そちらで暮らすがよい。以上 アコンカグラ
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ちょっと待って。え？ 僕、高嶺さんと結婚できたの？ その仕事、僕がやりたいです。
異世界召喚なんてすごい手間をかけるくらいなら、直接僕に声かけてください。すぐやります。
◇
ラカ「……シャロリック殿？ シャロリック殿！」
王子「……どうした？」
ラカ「天竜の用件に取り組もうとする途中で自失しているように見えたのだ。何があったのだ？」
我に返ってメールの羊皮紙を上にスワイプし……、右上の閉じるボタンをタップした。
王子「ああ、何日か前に言った幻覚についての用件だ。天竜が私に見せているらしい。そちらの相手をする。」
『ふむ、呆けているのでないなら良い』
ラカは二度ほど明滅した後、『周囲を警戒する』と言って静かになった。引用元：コミック９巻スペシャルショートストーリー
沈黙が始まると、私は心に棚を作った。追伸以下を棚にしまう。そしてメールを思い返した。
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～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～ シャロリック・シガは、あなたのいた世界に勇者として召喚され、よく任を果たし、そのまま留まることを選択した。この世界に残った彼の名前と身体は現状の通り、あなたが使うものとする。天之水花比売の仰せに依り下知如件。 天竜 何某
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そうか、シャロリック王子は頑張ったのだな（上から目線）。そして戻らないことが確定した。
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《条件を満たしました。称号『シャロリック・シガ』を獲得しました》
《称号『シャロリック・シガ』の効果により、称号『代理：シャロリック・シガ』を還元します》
《称号『シャロリック・シガ』の効果により、スキル『残された記憶：シャロリック・シガＬＶ１』『勝利ＬＶ１』を獲得しました》
《『キャラクター実演：シャロリック・シガＬＶ４』が『残された記憶：シャロリック・シガＬＶ１』に統合されました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『残された記憶：シャロリック・シガＬＶ１』が『残された記憶：シャロリック・シガＬＶ５』になりました》
チート期間終了のお知らせでした。
▶チートの一環として提供されたもの
・称号『代理：シャロリック・シガ』
┣スキル『キャラクター実演：シャロリック・シガＬＶ１』
┗スキル『シガ国語ＬＶ１』
・称号『挙動不審』
┣スキル『礼儀作法ＬＶ１』
┗スキル『一般常識ＬＶ１』
・称号『シャロリック・シガ』
┣スキル『残された記憶：シャロリック・シガＬＶ１』
┗スキル『勝利ＬＶ１』
▶チート期間中に獲得したもの
・スキル『キャラクター実演：シャロリック・シガ』×３
・スキル『魔力操作ＬＶ１』
・スキル『詠唱ＬＶ１』
・称号『女好きの王子』
┣スキル『誘惑ＬＶ１』
┗スキル『精神耐性ＬＶ１』
・伝説級の秘宝、ラカ
・長耳族の紫髪の娘、シズカ
・レベル４１→５２
・その他の成長